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スカウトの逆襲、地方大学生の評価は難しい

2021年06月07日

6/7、日刊ゲンダイ33面「スカウトの逆襲」より
オレにとって、苦い思い出しかない。週明けの7日から、神宮と東京ドームで行われる大学選手権のことさ。

10年以上前だから時効といえば時効だとも思うんだけど、地方の大学の右腕が神宮でとんでもないピッチングをした。140キロ超のストレートはキレがあり、バッタバッタと三振を奪った。ネット裏は一時、騒然としたくらいだ。

マウンドで快投を続けるこの投手はしかし、いかにも線が細い。おまけに帽子を浅く斜めにかぶってるし、ベンチとの行き来もチンタラしてたんで、試合後、学校の野球部関係者をつかまえて詳しく聞いたんだ。その右腕の性格やら練習態度を。

すると練習やトレーニングをほとんどやらないうえに、性格もチャランポランだという。これはもう、目からウロコ。後日、行われたスカウト会議で、その右腕の名前が指名リストのかなり上の方にあったんで言ったんだ。

「あの細い体や帽子のかぶり方を見たでしょう。性格や練習態度に問題があるんです。プロの厳しい練習についてこれませんよ」ってね。ウチの球団は野手を上位で狙っていたこともあり、ドラフトでは右腕の指名を見送った。

ところが――。翌年、ウチはその右腕にこっぴどくやられたばかりか、彼は新人王候補にもなったから、それこそ穴があったら入りたい心境だったよ。

「東京六大学や東都ならともかく、地方の大学生だし、たまたま神宮で良かっただけだと思い込んでたんだろ。それに練習しないとか性格がチャランポランだなんて、おまえが実際に学校まで行って確かめたわけじゃないんだろ。だれが言ったのか知らねーけど、ウワサ話に踊らされて・・・」

部長にこう言われて返す言葉もなかったさ。

「どうせ地方の大学生だろうという先入観や、ウワサ話の類いは排除して選手を見ろよ。野球名門校でなければ選手がチンタラ動いてたって不思議はねえし、担当スカウトがあえてガセ情報を流すケースも中にはある。これだと目を付けた選手にとってマイナスになるような話をわざわざ吹聴するんだ。練習態度が良くないとか、性格が悪いとかな。地方のリーグで飛び抜けた数字を残していても、マイナスの情報が出回れば、やっぱり地方出身だからなぁと、どうしたって評価を下げたくなる。神宮やドームで結果を出せなければなおさらだ。知り合いの東北担当のスカウトなんて、狙った選手が大学選手権でサッパリだと手をたたいて喜んでるよ」

部長の話を聞いているうちに、改めて地方の大学生の評価は難しいと思ったね。(プロ野球覆面スカウト)



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