スカウトの逆襲、地元のドラフト候補の視察
2023年02月27日

キャンプ地もまだ肌寒いとはいえ、日中、スタンドで太陽を浴びていれば、どうしたって気持ち良くもなる。
大きな声じゃ言えないけれど、前夜は地元の焼き鳥屋の大将と痛飲、次の休日にゴルフをやる約束をしたんだっけ。「あのオヤジは結構、うまいからなぁ」なんてグリーン上に思いを馳せてたら、つい、コックリ、コックリ。居眠りをしてたら部長の声で起こされた。
「いや、ベテランともなると余裕だね。グラウンドも見ずに……」って、いきなり嫌みだよ。聞けば次の休日、他球団の練習試合を見に行くという。
「あそこの球団のルーキーはおまえも高く評価してたじゃねーか。オレもいいと思ってた投手だ。試合で投げるかどうかは分からないが、ブルペンぐらいは見てオレたちの見立て通りなのか確かめたくてな。ウチのキャンプは休みだし、おまえも一緒に見にいかねーか?」
えーっと……次の休日はちょっと予定が……って、ここまで出かかったときに部長がたたみ込んできた。
「そういや、別の連中は地元の高校を見に行くって言ってたな。なんでもドラフト候補の右腕がいて、場合によっては上位指名もありそうだから、こっちにいるうちに見ておくってさ。なにも自分が担当したルーキーや若手選手の様子を見たり、相談に乗ったりするだけが、オレたちスカウトの仕事じゃねーからな。こっちにはわずかな期間しかいないんだし、時間は有効に使わないとな」
そういえば部長には以前、言われたことがある。スカウトはアマチュアの試合ばかり追い掛けてるせいか、選手を見る基準が多少、甘くなるきらいがあると。なのでキャンプで主力選手の動きやグラブさばき、エース級の球のキレなんかを目に焼き付けておくべきだってね。
オレが担当した高卒2年目の野手は順調に成長してる。二軍の首脳陣に聞いたら、シーズン半ばにはウエ(一軍)に推薦するつもりだって言ってたし、本人と話して今年にかける気持ちが強いことも分かった。
すっかり気を良くして「おい、同期の〇〇にだけは負けるんじゃねーぞ」なんてハッパかけてすっかり仕事が終わった気になっていたけど、部長の誘いを断ってゴルフになんか行って、後でバレたら何を言われるかわかったもんじゃない。
「次の休日ですね? もちろん、一緒に行かせてください!」。笑顔でこう言いながら、部屋のゴルフバッグはそのまま送り返すことになると思ったね(涙)。



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