冨士大和(大宮東)に8球団調査書
2024年10月19日

冨士大和(大宮東高・投手) 186cm・左投左打・動画 |
正直に白状する。大宮東(埼玉)の左腕・冨士大和(動画)の投球を見た第一印象は「よくわからない」だった。昨年、ドラフト候補に挙がった兄・隼斗(日本通運)は150キロ台の剛球を武器にするパワー型右腕。
ところが、その弟は同じドラフト候補でも毛色がまったく違った。左腕で、細身のシルエット。腕を振る角度はサイドハンドに近く、いわゆる「肘が落ちる」故障が懸念される使い方。セットポジションに入る前には、両腕を左右に広げて胸を開く独特のルーティンまである。
はっきり言って絵にならない、「クセスゴ」なスタイルだ。それなのに、投げ込むボールはすさまじい勢いでホームベースを通過し、捕手のミットを激しく叩く。最速144キロという数字以上に圧力を感じるボールだった。
この投げ方で、なぜこんなボールが投げられるのか。私は謎を解明するため、何度も大宮東グラウンドに通った。冨士は自身の投球スタイルが特殊ということを自覚していた。チームメートが冨士のマネをしようとしても、まったくフィットしないという。
左肘が落ちる点について聞くと、冨士はハキハキとした口調で答えた。「自分は胸郭を柔らかく使う腕の振りなんですけど、テイクバックで胸を張ると両肘の位置が下がるのは自然だと考えています。技術を勉強するのが好きな兄からも“それで大丈夫だよ”と言われています」
肩・肘の故障歴は皆無。長いイニングを投げても、張りがくるのは背中付近の筋肉だという。つまり、ダメージを軽減できる冨士大和オリジナルのフォームと言えるかもしれない。
甲子園出場歴はないものの、投げればいつも奪三振ショーが展開された。自慢のストレートは「指にかかった球は打たれたことがありません」と豪語する。チェンジアップも一般的な軌道ではなく、100キロ前後で緩やかに届き、打者を幻惑する。
投げ腕もメカニクスも異なるが、冨士を見ていると戸郷翔征(巨人)の高校時代が思い出される。戸郷もまたクセの強い腕の振りをしていたが、放たれたボールにはすさまじい勢いがあった。ともに指導者に個性を認められ、腕の振りをいじられていないという共通点がある。
現時点で全国的な注目度はないが、冨士は「左の戸郷」になれる逸材かもしれない。ドラフト会議を前に、冨士の元には8球団から調査書が届いている。唯一無二の個性を持ったサウスポーは「プロ一本」と退路を断って、10月24日を待つ。


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